本研究ではこれまでに、ストレス誘発性のF主要産生臓器を明らかにし、F産生・分泌刺激、及びその変化がストレス行動に与える影響を明らかにするべく実験を行ってきた。平成29年度はストレス誘発性Fの主要産生臓器および、ストレス応答に関与する自律神経系・HPA軸系の受容体の薬理学的阻害が行動やF分泌に与える影響を明らかにした。 平成30年度はHPA軸がF分泌に与える影響、ストレス曝露下でのF受容体の脳室内での阻害が行動に与える影響、及びFがストレス誘発性の体温上昇に与える影響を検討した。 グルココルチコイド受容体阻害薬であるRU-486のSDS曝露前処理はSDS曝露後の血漿中F濃度を有意に増加させた。これらの群において血漿中コルチコステロン濃度はSDS曝露群との有意差は無かった。したがって、ストレス誘発性のコルチコステロンは血漿中F濃度の上昇を抑制している可能性が示唆された。また、RU-486の前処理は血漿中F濃度のベースラインを低下させることも明らかになった。SDS曝露前にF受容体阻害薬を脳室内投与すると、オープンフィールドテストにおける不安様行動を誘発した。また同群は社会相互テストにおける社会性には影響を与えなかったが、相互マウス不在時のケージに対しての回避行動がみられた。これらの結果から、SDSにより誘発されるFは不安様行動を抑制する可能性が示唆された。マウス腹腔内への体温測定器の埋込み実験により、SDSによって体温が上昇し、SDS曝露前のF受容体阻害薬の脳室内投与処理によりSDS誘発性の体温上昇後の低下が阻害されたことから、FはSDS後の体温上昇後の回帰を促進する可能性が示唆された。 本研究により、Fはストレスによる行動と体温調節機構に関与する可能性が示された。
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