研究実績の概要 |
本研究では、La2CuO4を母物質としたホールドープ量の異なる銅酸化物高温超伝導体の金属相と絶縁相の界面において、Tcが金属側のドープ量に依らずバルクにおける最適ドープでの最高転移温度にピン留めされる現象[1]の機構理解を試みた。通常、ホールドープされたLa2CuO4では、Tcがドープ量に対してドーム形の依存性を示すことが知られ、このようなTcのピン留め現象はバルクにはないヘテロ界面特有の現象と考えられる。最近の絶対零度計算によって、金属相と絶縁相からなるヘテロ界面において、相分離不安定性が超伝導秩序のドーピング非依存性を引き起こしている可能性が示唆された[2]。これにより相分離不安定領域のホール密度を持った層は実現されず、実際には相分離領域外の境界までホール密度が押し出される為にTcがピン留めされる、というメカニズムが提唱されている。しかし、このメカニズムを理論的に検証するには有限温度計算による相分離・超伝導領域の解明が不可欠である。 このような背景から、本研究はハバード模型に対してクラスター動的平均場理論を適用し、絶縁相側と金属相の間の相分離領域に加え、d波超伝導領域を明らかにした。その結果、絶縁相側の超伝導領域は全て相分離で覆われ、実際に実現される超伝導転移温度は金属相側の相分離境界付近で最大となることが明らかになった。このことは、提唱されたメカニズムが有限温度においても成立し、実験結果を説明することを示唆している。さらに、実験の状況を再現した5層からなるヘテロ界面をハバード模型の枠組みで計算し、実際に界面のホール密度が相分離領域境界まで押し出されることを有限温度において確認した。 [1] J. Wu et al., Nat. Mater. 12, 877 (2013) [2] T. Misawa et al., Sci. Adv. 2, e1600664 (2016).
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