研究実績の概要 |
初めに、染色体DNAの構造を維持し、遺伝子発現の制御に関わるタンパク質である、建築タンパク質の大腸菌内のダイナミクスを調べる研究を行った。タンパク質として、FisとHU、Nhp6Aを用いた。大腸菌を培養して増殖させ、大腸菌内のタンパク質の運動を一分子蛍光顕微鏡を用いて観察した。Fis,Nhp6A,HUいずれも動かない分子が多く、6~7割ほどであった。この動かない成分は、タンパク質がDNAに安定に結合している状態に由来すると考えられる。一方、30~40%の分子は大腸菌内を拡散した。この成分の分子は、DNAとの結合と解離を繰り返しながら大腸菌内を拡散運動したと考えられる。3種類のタンパク質分子の拡散係数を定量的に求めたところ、HU,Nhp6A,Fisの順に早かった。 次に、転写因子の一種であるcAMP受容体タンパク質(cAMP Receptor Protein: CRP)の一分子観察を行った。eGFPを結合させたCRP(eGFP-CRP)を発現する大腸菌を培養し、一分子蛍光顕微鏡を用いた観察を行った。内在性のCRP存在下では、eGFP-CRP分子のほとんどが素早く拡散していた。一方、内在性のCPRをノックアウトした大腸菌では、遅い拡散をする分子の割合が著しく増加した。このことから、内在性CRPを持つ大腸菌では、内在性のCRPがCRPの標的配列に結合していて、eGFP-CRPが標的配列に結合できなかったと考えられる。 転写因子は核内や細胞全体から標的配列を探し出す必要があるため、素早く細胞内を拡散すると考えられる。一方、建築タンパク質はDNAと結合して染色体の構造を構築することが役割であるため、機能するためには局所的な運動で十分であると推定される。本研究で、タンパク質の機能の違いがダイナミクスの違いとして現れることを証明できた。
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