研究実績の概要 |
太陽系誕生以前の星屑であるプレソーラーケイ酸塩粒子は、太陽系物質に対して大きな酸素同位体異常を持つ。プレソーラー粒子は太陽系の原材料物質であるが、始原的隕石や彗星塵中のプレソーラーケイ酸塩粒子存在量は少なく、プレソーラーケイ酸塩粒子の大部分が隕石母天体や彗星に取り込まれる以前に原始太陽系円盤での熱的プロセスで破壊された可能性を示す。本研究では、始原的ケイ酸塩である非晶質ケイ酸塩と円盤ガスとの酸素同位体交換に伴うプレソーラーケイ酸塩粒子の特異的酸素同位体組成の消失に注目し、プレソーラーケイ酸塩粒子の初期太陽系での残存条件の制約を試みた。前年度は、フォルステライト組成の非晶質ケイ酸塩の酸素同位体交換機構及び速度を導出した (Yamamoto et al., 2018)。本年度は、フォルステライト同様に主要ケイ酸塩であるエンスタタイト組成の非晶質ケイ酸塩 (非晶質エンスタタイト) と水蒸気との酸素同位体交換を調査し、原始太陽系円盤での非晶質ケイ酸塩粒子の酸素同位体交換の包括的な理解を目指した。 同位体交換実験には、原始太陽系円盤の低水蒸気圧環境を再現可能な真空加熱装置を用いて、非晶質エンスタタイトサブミクロン粒子を温度923-1003 K, 水蒸気圧0.3 Paで加熱した。 同位体交換率の時間変化は三次元球への拡散方程式で説明することができ、拡散支配の同位体交換効率を取得した。非晶質エンスタタイトの同位体交換効率は非晶質フォルステライトの場合に対して常に約30倍遅いことがわかった。 上記などの結果から、プレソーラー非晶質ケイ酸塩の初期酸素同位体組成の保持には~500-650 K以下の環境が必要であることがわかった。この結果は更に宇宙惑星科学で第一級の問題の一つである太陽系物質の酸素同位体不均質を説明する一つのメカニズムとして考えることができる。
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