強磁性金属/超伝導体接合は、超伝導スピントロニクスの分野において活発に研究されている系の一つである。例えば、s波超伝導体探針を用いた強磁性金属とのポイントコンタクトの実験によって、強磁性金属のスピン分極率を評価できることが知られている。従来はポイントコンタクトによる強磁性金属のスピン分極率の評価の際、接合界面に働くラシュバ型スピン軌道相互作用(RSOC)の影響は無視されていたが、強磁性金属/s波超伝導体接合の界面に働くRSOCがトンネルコンダクタンスを増加させることが先行研究によって理論的に明らかにされた。この先行研究の結果は、強磁性金属のスピン分極率の正確な評価のためには接合界面のRSOCを考慮する必要があることを示唆している。 本研究の目的は、強磁性金属/スピン一重項超伝導体接合界面のRSOCがトンネルコンダクタンスに与える影響をより詳細に調べることである。具体的には、格子模型を用いて強磁性金属/s波超伝導体接合、強磁性金属/(110)表面を接合されたd波超伝導体接合のトンネルコンダクタンスを数値的に計算した。先行研究では、トンネルコンダクタンスの振る舞いは超伝導体表面のRSOCが与える影響によって考察されていたが、強磁性金属表面に働くRSOCがトンネルコンダクタンスに与える影響は明らかにされていなかった。本研究において、強磁性金属表面のRSOCについても接合のトンネルコンダクタンスを増加させることが明らかとなり、この振る舞いは強磁性金属表面のスピン構造によって理解することができた。また、完全にスピン分極した強磁性金属/d波超伝導体接合では、界面に十分強いRSOCとトンネル障壁が存在した場合、有限温度においてトンネルコンダクタンスにピーク構造が現れ得ることが明らかになった。
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