研究実績の概要 |
本研究課題の目的であるスピン流熱電変換素子の作製には、なるべく高いキュリー温度をもつ強磁性半導体の物質探索が必要である。そこで、まず高いキュリー温度をもつ新奇な希土類単酸化物(REO)の発見とエピタキシャル合成を目指して、様々なREOに対して物性探索を行なった。その過程で、ランタン単酸化物(LaO)の単結晶エピタキシャル薄膜が最大5.2 Kで超伝導を発現することを偶然発見した。これまで最安定相でワイドギャップ絶縁体のLa2O3を原材料とすることでLaO層と超伝導層からなる層状物質の銅酸化物超伝導体(La,Ba)2CuO4や鉄系超伝導体La(O,F)FeAsが合成されてきたが、ランタン酸化物自体は超伝導を発現しないと考えられてきた。特に今回観測したLaOの超伝導転移温度(Tc)は、既報の他の岩塩型ランタン16族化合物(LaS, LaSe, LaTe)の転移温度が高々1 K程度であることを考えると、比較的高い。そこで当初の研究目的とは逸れるが、LaOエピタキシャル薄膜に関して詳細な超伝導特性を調べることにした。その結果、LaOの超伝導転移温度は電子キャリア濃度と単結晶基板による圧縮・引張歪みに大きく影響を受けることを解明した。 LaOの超伝導研究をさらに発展させてYAlO3(110)基板上で強磁性半導体のEuOを下部層としてヘテロ接合を試みた。すると、界面粗さが1 u.c.オーダーの清浄な接合界面をもつLaO/EuOヘテロエピタキシャル薄膜が得られることを発見した。LaO/EuOヘテロ薄膜では超伝導層のLaOに対しEuOは強磁性絶縁層として機能し、EuOの強磁性によりLaOの超伝導は抑制される。またEuO層からLaO層へのスピン流の注入を示唆する結果も得ており、今後、EuOのダンピング定数やLaOのスピン拡散長などのスピン特性パラメータを算出していく予定である。
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