イオン液体(IL)は純粋な塩でありながら常温で液体として存在する物質群であり、溶質にとって極めて異質な溶媒和環境を形成する溶媒である。本課題は、IL中で刺激応答性相分離を起こす高分子に対して散乱実験を基軸とした構造研究を行い、高分子/IL混合系のマクロ相挙動をミクロ溶媒和の観点から理解しようとするものである。平成28年度には、疎水性IL([C2mIm][TFSA])中で下限臨界相溶温度(LCST)型相分離を起こす高分子であるPPhEtMAに着目し、温度応答・圧力応答を詳細に調べた。 本年度は、これまでの研究を踏まえ、IL中における高分子の相挙動に関してより詳細な研究を行った。具体的には、PPhEtMA/[C2mIm][TFSA]溶液系を基軸として高分子側鎖あるいはILの分子構造を様々に変化させた系に対して小角中性子散乱実験および高エネルギーX線回折実験による構造解析を行った。結果として、マクロ相挙動を記述する相互作用パラメータの温度依存性が高分子側鎖・ILの分子構造によって異なっており、さらにその差異はミクロ溶媒和構造に基づいて系統的に説明できることが明らかになった。高分子/IL溶液系の相挙動を分子レベルで特徴づけた研究例は稀有であり、本研究はILを溶媒として含む高分子材料の物性設計を行う上で非常に重要なものとなる。 また、ILは従来溶媒系よりも格段に広い温度・圧力範囲で液体状態を保つため、IL溶液系の圧力応答を調べるためには、可能な限り高温・高圧での測定が可能な測定系を構築することが重要となる。このため、高圧動的光散乱(DLS)装置のアップグレードを並行して行った。具体的には、高圧下でもインナーセルを安定して固定できるセルホルダの整備、より高温下(~140℃)での測定を行うためのセルおよびステージの追加工を行うことにより、高温・高圧下での実験を安定して行うことを可能にした。
|