研究課題
特別研究員奨励費
本研究は、イタリア近代文学の傑作であるマンゾーニ『婚約者』という歴史小説を、小説の発展の遅れたイタリア文学の枠内ではなく、ヨーロッパ文学の文脈において捉えるものである。そしてイギリスのウォルター・スコットやフランスのバルザックらの小説との関連に注意しながら、通常、歴史小説よりはそのあとに登場する同時代小説に見られるとされる「リアリズム」の特徴が、『婚約者』にすでに備わっているということを明らかにするのが本研究の目的である。本年度は、1825-27年に初版が出版された『婚約者』が同時代の批評において「フランドル絵画」に喩えられていたことに着目して研究を進めた。日常の現実を細部にわたって記述するようになった19世紀ヨーロッパの小説の多くが、同じようにオランダ・フランドル絵画になぞらえられたことと並行する現象と見られるからである。そして、歴史小説を含む19世紀前半の小説をオランダ絵画に喩えた同時代批評の分析・考察を通じて、リアリズムという現象を、(特にフランスの)同時代小説を典型例とするのとは異なる立場から、しかも絵画という他のジャンルの視点を交えつつ、捉え直すことが試みられた。これは、当初の計画とは研究手法が異なるが、目的にはかなうものと言える。なおマンゾーニ研究においては、近年、『婚約者』と絵画・図像との関係に注目した研究が盛んになってきており、イタリアで開催されたセミナー等に出席した際も最新の研究について意見を交わすことができたが、それによって得られた知見は、学会において発表・投稿した成果にも反映させることができた。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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天野惠先生退職記念論文集
巻: 1 ページ: 207-224
イタリア学会誌
巻: 67 ページ: 49-72
130007521671