研究実績の概要 |
近年我々は脱細胞化子宮組織を用いた生体内でのマウス子宮再生モデルを樹立し、生体内での部分的子宮再生の成功や、再生過程で転写因子STAT3が重要な役割を果たしていることを報告したが(JCI insight, 2016)、野生型マウスと子宮特異的STAT3ノックアウトマウスの上皮再生過程の差異に着目し、再生を制御する分子生物学的機序に関する解析を行ったところ、ある液性因子がSTAT3の下流で子宮内膜の再生を制御している可能性が示唆された。また昨年度は、不妊治療研究の一環として、不妊症との関連が示唆される子宮腺筋症のマウスモデルの作成も行った。子宮腺筋症の病因として、子宮内膜爬術などの子宮手術に関連する群が存在するという報告に着目し、マウス子宮内腔から筋層にかけて微小な傷を人工的に作成することで子宮腺筋症様の病変を誘導することに成功し、子宮内膜の異所性発育においてもSTAT3が重要な役割を果たしていることが示唆された。昨年度は上記に加え、脱細胞化組織を用いて試験管内でマウス子宮細胞を培養する還流装置の開発を行った。採取したマウス子宮を細切しコラゲナーゼで処理し回収した上皮・間質・筋層が混合した末梢分化細胞を懸濁液として注射器を用いて脱細胞化組織内に注入し、密閉された還流系のなかで培養液を脱細胞化組織内に浸透させたところ、3日間の還流培養に成功した。今後はこの技術を洗練させ、成長因子や化合物をもちいた子宮再生培養系の確立を目指す。昨年度はさらに、不妊症の解明のため、上記の研究以外にも、遺伝子改変マウスモデルを用いて卵子の成熟や受精卵の着床に関する分子生物学的解明を行った。これらの研究成果は、J Clin Invest. (Matsumoto L, et al. 2018) やFASEB J. (Haraguchi H, et al. 2019) などの著明な科学雑誌に掲載された。
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