研究実績の概要 |
昨年度までに取り組んできた南極周極流域における船舶観測データの解析から, 既存の乱流パラメタリゼーションによる乱流強度の過大評価傾向は, 背景内部波エネルギーの「鉛直波数スペクトルの歪み」と強く関連していることが明らかになった. 本年度は, この「歪み」の大きさを評価する変数を導入した上で, 背景内部波場の特徴や平均流シアーとの関係について重相関解析を行った. その結果, 鉛直波数スペクトルの歪みは「地衡流シアーによる近慣性波の励起・捕捉」や「地衡流に伴う風下波の励起」により形成されていた可能性が示唆された. 上記のデータ解析に加え, 地衡流シアーが内部波の砕波に与える影響, 特に波-平均流相互作用を通じて与える影響を定量的に評価するために, 3次元波追跡シミュレーション (eikonal calculations) を行った. 数値実験の結果, 平均流シアーと背景内部波場が共存する現実的な状況において, 波-平均流相互作用は非常に小さくなることが示された. これまでは「南大洋における乱流混合は, 近慣性波や風下波の砕波によって生じるが, これらの内部波と地衡流との波-平均流相互作用も考慮する必要がある」と考えられてきた. それに対して, 本研究課題では, 南極周極流域における船舶観測とそれに基づく波追跡シミュレーションから, 次のような新しい解釈を提示することができた. (1) まず, 乱流混合に直接的に寄与するのは鉛直高波数の内部波の砕波である. 南極周極流域では, 鉛直低波数の近慣性波や風下波は自ら砕波しにくいため, これらが鉛直波数スペクトルに歪みをもたらす場合には, 既存の乱流パラメタリゼーションは乱流強度を過大評価してしまう. (2) 地衡流シアーは, 鉛直低波数の近慣性波や風下波を励起・増幅する役割を果たす一方, 乱流強度には直接影響を与えないと考えられる.
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