研究実績の概要 |
私は、超弱磁場環境下でユウロピウム原子(Eu)のボース凝縮体を生成し、spinor dipolar BEC の基底状態相の探索を行うことを目標として研究を行ってきた。Eu のボース凝縮体を生成するためには、磁気光学トラップされた準安定状態Eu を基底状態へ戻し、基底状態で磁気光学トラップを行い、その後、光トラップ中で蒸発冷却を行う必要がある。昨年度までの研究を通して私は、磁気光学トラップされた準安定状態Euを基底状態へ戻すことに成功し、基底状態Euの磁気光学トラップへ向けた準備を進めてきた。 令和1年度は、昨年度の研究を更に推し進め、基底状態に戻されたEu原子に対して、波長687nmの冷却光、及び、冷却中に他の準安定状態へ緩和した原子を基底状態へ戻すための3波長(1148nm, 1171nm, 1204nm)のリパンプ光を同時に照射することで、基底状態Euの磁気光学トラップを実現した。トラップされた原子数は5×10^7個、原子集団の温度は5μKであった。今後ボース凝縮体を実現するにあたって十分な原子数と温度であると考えられる。また、本冷却遷移の励起状態から他の準安定状態への緩和レートは1.6×10^4 s^-1と非常に大きいことが明らかとなった。さらに、冷却された基底状態Eu原子を、波長1.5μm、パワー15Wのファイバーレーザーを用いて作成した光トラップへ導入し、4×10^6個の原子を光トラップへ導入することに成功した。原理的には光トラップ中で蒸発冷却を施すことによりEu原子のボース凝縮体が得られると考えられる。 残念ながら当初の目標であったspinor dipolar BECの基底状態探索を実現することはできなかった。しかし、本研究を通してEu原子の冷却方法を確立したことで、今後のEu原子を用いた量子磁性気体の研究が円滑に進むと期待される。
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