研究実績の概要 |
前年度に発見していたエリサンSamia riciniの性決定遺伝子について, TALENによるノックアウトをおこない, 機能証明をおこなった. 前年度においては, 初期胚における当該遺伝子のノックダウン実験の結果から, 機能を類推するに留まっていたが, 上記ノックアウト実験の結果が, ノックダウン実験の結果と一致したことから, 当該遺伝子が性決定遺伝子であることが証明された. さらに, 当該遺伝子をノックアウト/ノックダウンした初期胚においてトランスクリプトーム解析をおこなったところ, 雄初期胚特異的に性染色体上の遺伝子発現が上昇することが分かった. この結果は, この遺伝子が抑制性の遺伝子量補償機構に関与していること示唆している. また, この性決定遺伝子は(Aと仮称する), エリサン以外の鱗翅目昆虫において性決定・遺伝子量補償機能を担っている遺伝子(Bと仮称する)とパラログ関係にある. エリサンにおいて, B遺伝子を(CRISPR/Cas9システムを用いて)ノックアウトしたところ, 性決定には関与していないものの, 遺伝子量補償機能は有していることが明らかとなった. すなわち, エリサンの祖先種において, 遺伝子重複が起こった結果, B遺伝子は性決定機能を喪失し, 新たに生じたA遺伝子の方に性決定機能が残存したものと考えられる. さらに, B遺伝子をノックアウトした初期胚においてトランスクリプトーム解析をおこなったところ, A遺伝子のノックアウト時に発現上昇する遺伝子とは異なる遺伝子(群)が発現上昇することが明らかとなった. A遺伝子とB遺伝子は, ともに遺伝子量補償に関与しつつも, 異なる遺伝子(群)を相補的に発現抑制しており, 図らずも機能分化の美しい一例を観察することに成功した.
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