ファラリンは1999年にColegateらによってイネ科クサヨシ属Phalaris coerulescensより単離,構造決定されたフラノビスインドールアルカロイドである.2種類のインドール環が4a及び9a位の連続不斉4置換炭素中心を介して縮環したユニークなプロペラ骨格を有しており,連続4置換炭素中心の立体選択的な構築,及び官能基密集型インドールの合成が困難なことが知られていた.私は,不斉4置換炭素中心の構築法の確立を基盤としたファラリンの不斉全合成を目的として研究を行った. 脱芳香化反応の開発に向けてインドールアリールエステルを基質に設定し,パラジウム触媒の探索を行った.配位子の添加により反応性が低下したことから,配位子を用いない条件下において目的とする脱芳香化反応を実現し,ラセミ体のインドリン中間体を5-gスケールで合成した. 得られた4置換炭素中心の立体化学を活用し,連続4置換炭素中心を含むプロペラ骨格の構築を行った.すなわち,フェノール及びアミドを有するオレフィンに対してパラジウム触媒を作用させることによって,アルコキシパラジウム化,一酸化炭素の挿入,続くアミドの閉環反応が一挙に進行し,ファラリンの有するプロペラ骨格を1段階のカスケード反応で得ることに成功した. 得られた環状イミドに対して還元を含む2工程の変換を行うことより,Danishefskyらの合成中間体と同様の5環性骨格へと導いた. 本合成法によって,インドールアリールエステルから3段階で迅速にファラリンの有する特徴的なプロペラ骨格が構築できており,残るインドール環の構築によってファラリンの全合成が実現できるものと考えられる.本研究成果は脱芳香化を基盤とする3次元天然物に対する迅速な骨格構築法を見出すとともにその有効性を実証できたことから,今後の有機合成化学の発展や生物活性探索の礎の一端を担うものと考えている.
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