全光メモリとは入力、出力、制御の全てにおいて光だけで動作させることのできるメモリのことです。従来電気で行われていた信号処理を光で置き換えた光情報処理などへの応用が期待されます。全光メモリは材料の非線形光学効果を利用して実現されるため、通常光と物質との相互作用を強めための誘電体の周期構造を必要とします。この周期は光の波長程度の長さである必要があり、そのため光の波長よりも小さな全光メモリを作成することは困難とされてきました。 本研究では、表面に吸着した分子に由来した特殊な非線形光学効果を利用して、単一のカーボンナノチューブを光メモリとして動作させることに成功しました。カーボンナノチューブの直径は波長の1000分の1程度と非常に小さいため、全光メモリの高集積化が期待できます。 単一のカーボンナノチューブが架橋したサンプルを化学気相成長法により作成し、フォトルミネッセンス(PL)の励起強度依存性を調べました。すると非常によく吸収する波長より僅かに短い光で励起した場合、ある励起強度から発光スペクトルが大きく変わることがわかりました。これは吸着している分子が急激に着脱した結果であると考えられます。さらに励起強度を強くしていく方に変えた場合と、弱くしていく方に変えて行く場合とでスペクトルが大きく変わる励起強度が異なることもわかりました。この結果はナノチューブが同一の入力状態に対し、励起強度の履歴に依存して異なる2つの出力状態をとることを示しています。 この2つの出力状態を光学的に繰り返し切り替えることができるかを、図に示すように励起レーザーの強度を時間的に変化させることで調べました。その結果、たしかに単一のナノチューブが繰り返し読み書き可能な全光メモリとして安定に動作するということが確認できました。
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