研究実績の概要 |
本研究では、半導体表面上において、基板の高いデバイエネルギーと表面におけるラシュバ効果により高い臨界温度・臨界磁場を持つ超伝導を実現することを目指している。本年度は特に後者のテーマ、すなわちラシュバ効果による臨界磁場の向上の実証を目標とした。物質としては、シリコン表面上でタリウムと鉛が2次元的に再構成したSi(111)-√3x√3-(Tl,Pb)に着目した。これまで、ARPES測定と電気抵抗測定によりSi(111)-√3x√3-(Tl,Pb)は分裂幅250 meVと大きなラシュバ効果とTc = 2.3 Kの超伝導を併せ持つことがわかっており、本研究では新たに面内磁場中での特性を調べた。すると、5 Tでもほとんど転移温度に変化がないことが明らかとなった。2次元超伝導体では、平行磁場に対しては常磁性効果によって対破壊が起きる。BCS理論によるとその値(パウリ限界)は1.86×Tc = 4.4 Tで与えられるが、今回観測された上部臨界磁場は明らかにパウリ限界を超えている。この結果は、ラシュバ効果によって臨界磁場が向上したことを意味している。その結果をInternational symposium of surface science及び日本物理学会で報告・議論し、ラシュバ効果と超伝導の関連性をより正確に計算するため、理論物理の専門家との共同研究を開始した。今後は、本年度に得られた実験結果に共同研究の計算結果を合わせ、物理専門誌への報告を行う予定である。
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