研究課題
特別研究員奨励費
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震と、それに伴う津波により、東北の沿岸生態系は大規模な攪乱を受けた。津波による攪乱後の海底の群集遷移については、知見が蓄積されてきている。その一方で、津波による広範囲に影響を与える大規模な攪乱の後に、新しく出現した生物がどこからやってきたのか、はほとんど分かっていない。 本研究では宮城県女川湾で津波後に卓越した環形動物がどこからやってきたか(どの湾の個体と遺伝的に近縁であるか)を明らかにすることを目的として研究を行った。2018年度は、エリタケフシゴカイの解析個体数を増やし、さらにナガオタケフシゴカイについても、ミトコンドリア遺伝子のCOI領域と次世代シークエンサーを使ったゲノムから塩基置換を探索するMIG-seq法を用いて解析を行った。エリタケフシゴカイの結果のみ記述すると、COIに基づく解析では宮城県の女川湾より北(岩手県の山田湾・大槌湾・釜石湾)ではある卓越するハプロタイプと、そのハプロタイプから派生した数種類が得られたのみであった。一方で、女川湾・東京湾・伊勢湾では1つのハプロタイプが卓越せず、様々なハプロタイプが確認された。すなわち、東北の湾の間でも本種の個体の交流は限定的である可能性が示唆された。MIG-seq法の解析の結果、各湾の遺伝的集団の間に明確といえる差は検出されなかった。COIと核SNPsでは異なる傾向が見られた理由は、ミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の有効集団サイズが異なるので、岩手県の集団のみが受けた遺伝的浮動がCOIでのみ検出されたためと予想された。遺伝的浮動の要因としては、本種の分布域が太平洋に限られること、過去の気候変動が関与していることが推測された。このような傾向は、東北地方の沿岸生物では初めて見られたパターンである。本研究は日本の沿岸生物の遺伝的集団構造の成立に関する知見の蓄積に貢献したと言える。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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