本研究の目的は、能動的に身体を動かすことによって重力空間の知覚が促進されるかという問いについて、ヒトを対象とした行動実験によって明らかにすることである。本年度は、若年健常者と対象として、身体傾斜中に上肢運動を行うことで重力方向の知覚がどのように変化するかを検証した。 実験参加者は、身体傾斜装置に座位をとり、左側方に身体が傾けられた。傾斜停止後、参加者は、前方のディスプレイ上に呈示された視覚的な線分を主観的重力方向(subjective visual vertical;SVV)に合わせる課題(以下、重力方向推定課題)を行った。その後、参加者には、上肢を動的または静的に動かす課題を一定時間行わせた後、再び重力方向推定課題を行わせた。上肢運動課題前後のSVVの角度を比較した。 本実験の結果、上肢運動を行わなかった条件ならびに静的な上肢運動を行った条件では、運動課題後にSVVが有意に身体傾斜側に偏倚した。それに対し、動的な上肢運動を行った条件では、運動課題前後のSVVに有意な差は認められなかった。これらの結果は、上肢をダイナミックに動かす際に得られる付加的な情報(筋や関節などの受容器からの固有感覚情報など)が安定した重力方向の推定に寄与していることを示唆している。本研究で得られた成果は、「身体を能動的に動かすことで重力空間の知覚が促進される」という仮説を支持し、空間知覚と運動との機能的関連を理解するための重要な知見に成り得ると考える。 これらの結果は、平成29年度に行われた第13回「空間認知と運動制御研究会」において口頭で発表した。今後、本研究で得られた結果を総合し、国際学会での発表ならびに国際誌に論文投稿する予定としている。
|