1、背景と目的 サンゴ礁は生物多様性が最も豊かな生態系のひとつである。サンゴ礁をつくるミドリイシ属のサンゴ(以下サンゴ)は、蛍光タンパク質(Fluorescent protein: FP)をもつ。FPはエネルギーの高い光(励起光)を吸収し、エネルギーの低い波長に変換して蛍光として放射するタンパク質である。その性質からFPが強光からサンゴを保護する可能性が提唱されているが、実際の役割はよくわかっていない。FPの役割を解明するには、どのような機能のFP遺伝子がサンゴに存在するか、つまりFPの遺伝子基盤の把握が必要である。そこで本研究は、サンゴのFP遺伝子の全体像を解明すること、次いでそれらの個体間の違いを明らかにすることで、FPの生体内での役割を解明することを目的としている。 2、内容 (1) コユビミドリイシ複数個体からFP遺伝子のエクソン3配列を決定し、 RNA-seqを用いてFP配列間の発現量比較解析を行った。成体では、1つの系統に含まれるFP配列の発現に個体間でばらつきがあり、発現量の上昇は特定のFP配列の発現上昇によることが明らかになった。幼生のRNA-seqデータを用いた解析により、発生段階特異的にFP配列が発現することが明らかになった。 (2) コユビミドリイシの蛍光を測ると、蛍光の有無による表現型の多型が存在した。ゲノムと遺伝子発現を解析すると、蛍光の有無は1つのFP配列の発現の有無と相関があり、その発現の有無はそのFP配列のゲノム上での存在の有無で起きていた。地理的に離れた集団のゲノム解析から、この1遺伝子の有無は別集団でも多型であることがわかり、蛍光の多型は古くから維持されていると考えられた。これらの結果から、成体の蛍光は「生存に必須な役割」ではなく、「多様性が要求される役割」を担う可能性を示唆された。
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