研究実績の概要 |
重要構造物の構造信頼性を高めるために、周辺地盤と構造物の相互作用から生じる非線形応答を考慮して、長継続時間地震動による過渡応答を精度良く評価することが重要である。本年度は、数値解析の計算時間の多くを占めている線形ソルバに対し、長継続地震動を受ける動的解析を実現するため、強スケーリングにおいて高い並列計算性能を実現できる線形ソルバを提案した。具体的には、並列計算効率が高い線形ソルバとして注目されるSPIKE法に対して、従来、帯行列のみにしか適応できないという制約を緩め、領域分割型有限要素法に基づいて理論を拡張した。さらに、提案手法はオーバーラッピング型領域分割による解析手法の一種であり、反復法前処理として適用可能であることを示した。提案手法は、実問題を模した大規模モデルに対し、提案手法の有効性を検証した。数値例の結果、従来手法のBiCGStab法と比較すると、提案手法は全計算時間を51%短縮できた。従来手法のCG法に対しては、全計算時間を9.9%短縮できた。 また、実問題から得られる有限要素解析では、解かれる連立一次方程式の条件数が大きな悪条件問題となり、収束性が悪化する場合がある。この問題に対して、計算時間や並列計算性能の観点から反復法前処理の性能向上を試みた。具体的には、Localized IRIF(p), ISANV(p)前処理に対し、前処理行列に低い精度の浮動小数点数を用いた、混合精度前処理への拡張を実施し、収束性の評価を行った。板状構造モデルに対し、従来手法のLocalized ILU(1)前処理と比較した結果、提案手法の混合精度Localized IRIF(1)前処理は計算時間を最大55%短縮できた。
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