研究実績の概要 |
これまでの研究において、研究代表者はブラックホールに落下するガス雲からの光度変動を用いたブラックホールスピンの新しい測定法の提唱を行ない、一般相対論的放射磁気流体シミュレーションにより、現実的な系でガス雲モデルを検証し、方法論の原理的な部分を完成させた。昨年は、提唱した方法論の観測への適用をメインテーマとして研究を行った。 研究代表者が独自に提唱した方法論に対する最も本質的かつ理想的な観測は、超長基線電波干渉計(VLBI) を用いた、ブラックホール候補天体のなかで最大の視半径を持つSgr A*, M87 の直接撮像である。特にEvent Horizon Telescope(EHT) を用いたVLBI 観測の発展によって、世界初のブラックホール近傍の撮像画像が近未来に得られる可能性が高まっている。そのため、新スピン測定法をVLBI観測の観測ターゲットに適用できるように一般化した。さらに、ブラックホールへの間欠的なガス雲の落下を想定したEHT模擬観測を実行し、スピンの測定精度と方法論の有用性を検証した。 また、研究代表者は近い将来得られるであろうEHT観測に、提唱した方法論を適用するための準備を行った。まず、EHT計画のメンバーとして、ブラックホールに落下するガス雲の直接撮像観測のデータ解析・プログラム開発に携わり、実際の観測データの解析に貢献した。開発されたソフトウェアは、パブリックライブラリとして近日公開が予定されている。観測技術や解析方法の取得を完了するために、EHTの中心機関であるマサチューセッツ工科大学のヘイスタック天文台に約2ヶ月滞在した。 このように研究代表者独自のブラックホールスピン測定法の理論的な提唱に加え、それを観測に適用するための準備を完了し、現在観測と理論の適応を開始している。
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