研究実績の概要 |
本課題では、多極子秩序に誘起される新奇超伝導状態に関する普遍的な性質を探索することを目的としている。前年度までは、主に多極子秩序によって対称性が破れた相に注目し、FFLO超伝導や非自明ギャップ構造といった様々な新奇超伝導状態を明らかにしてきた。特に、非自明ギャップ構造とトポロジーの関係を包括的に分類した研究については、結果をまとめた論文が今年度4月に出版されたため、宣伝として国際会議において1件の口頭発表、3件のポスター発表を行った。さらに、近年発見された異方的超伝導体UTe2を対象として、第一原理計算をもとに非自明ギャップ構造やトポロジカル超伝導の可能性について議論した。論文はPhysical Review Letters誌に掲載されている。 今年度は、むしろ多極子が秩序する"寸前"に注目し、その多極子揺らぎを媒介とした新奇超伝導状態を探索する研究を行った。具体的には、特にスピン軌道相互作用が強い系に注目し、波数基底で表示した様々な対称性の多極子に関して強的な多極子間相互作用からどのような超伝導状態が安定になるかを網羅的に計算した。結果として、電気多極子揺らぎの場合には通常のs波超伝導の他に、その多極子と同じ対称性をもつ異方的超伝導が安定になることが分かった。一方磁気多極子揺らぎの場合、等方的な系では超伝導が安定にならないが、結晶場の効果を考慮することで異方的なペアリングが現れうることが明らかになった。また、候補物質としてSrTiO3, PrTi2Al20, Li2(Pd, Pt)3Bなどの超伝導体に関する議論も行った。これらの成果については3件の口頭発表、1件のポスター発表を行い、成果をまとめた論文はPhysical Review Research誌に投稿中である。
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