研究課題
特別研究員奨励費
本年度は当該研究テーマで博士論文を執筆し、東京大学大学院学際情報学府に提出した。博士論文では近代日本において「エロ・グロ」といった言葉で表現されてきた「非正統的な書物」の世界を対象に、梅原北明の「文芸市場社」を中心に分派分裂し、広がりを見せた戦前昭和の珍書屋のネットワークと、そこから発行された特殊風俗文献を分析対象として「地下出版空間」と呼ぶべき文化圏の消長を論じた。同社には、梅原北明のほか酒井潔や花房四郎(中野正人)、斎藤昌三、伊藤竹酔らが集ったが、そこに広がる教養観を明らかにすることで、これまで論じられてきた「教養主義」とは別種のオルタナティブな教養主義の水脈を示し、社会学のみならず、メディア史、文化批評にも資する知見の提出を試みた。とくにPDの研究課題である「市井の学」、すなわちアカデミズムの外部における学的共同体の成立を論じたこと、それが従来看過されてきた「軟派出版」の領域においてなされたことを示した点に、本研究の認識利得がある。分析にあたっては、「場」を探るべく「地下出版界」が他の領域から自律性を獲得するために用いたコミュニケーションの指標として、【1】コミュニティ感覚や集団的アイデンティティを作り出す価値観や趣味taste、【2】頒布されたメディアの形式性、【3】身体/肉体的パフォーマンスに着目した。以上の成果にくわえ、本年度は金沢文圃閣より2点の古書資料復刻事業に携わり、資料の解題を2点手掛けた(うち1冊は2020年4月に刊行)。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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年報社会学論集
巻: 20 ページ: 122-133
130007480198