諸国の慈善文化、特にはその(統計的に確認した)格差の背景には如何なる社会的論理があるか。これを捉えるのが本研究の大きな視座であり、報告者は、古典中の古典たるウェーバーの『倫理』を重要な先行研究にして、その着想を拡張しての包括的な宗教-経済史の組み立てを目し、地域ごとに支配的と見られるイデオロギー運動体の思想唱道を自らの理論枠組みに従って整理・比較することにした。報告者は、採用前から引き続いてジョン・ウェスレー研究を継続し、また宗教改革者らや同時代ローマ・カトリック指導的思想家などの思想検討を行なっている。これに加えて、一般的枠組みの理論化を進めて我々現代人が直面する現象をも射程に収められるようにするために、現代社会の動態における宗教的現象を取り上げ、従来扱ってきた歴史的対象(近世イギリスのもの)と通底した骨格を取り出し、合わせてその理論的対照概念を構築して、統一された理論的概念間の変化として歴史的変遷を記述できるようにした。そして、以上のような理論的言語の構築のみならず、対象としてきた地域・時代における具体的な人々の活動、組織の活動に根差した研究こそ申請の主眼であった。この目的のため、研究奨励費を渡航費に、初年次には米国ニューイングランド地域を訪問したが二年次には英国を訪問し、主にロンドンに滞在しつつ、一ヶ月近くの間資料収集に当たった。日中のほとんどを公文書館で費やしローカルな地域史史料・組織資料・公文書を得ることができたが、この他に市域内の古書店を歴訪して日本からでは今なお入手困難な文献を多数入手した。また他の重要地方にも足を伸ばし、同じく地域史資料を収集した。郷土史家の活動成果を多数得られたことは現地訪問ならではの成果と言える。目下、これらの資史料を整理検討して、自らの研究に組み込んでいるところであり、理論的枠組みとそれを支える史的材料の双方を、採用中に得たことになる。
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