研究実績の概要 |
これまでに我々はクロマグロの生殖細胞を移植する宿主候補としてスマ×タイセイヨウヤイト雑種の作出に成功している。本雑種は雑種強勢により仔稚魚期において、野生型スマよりも高生残・高成長を示すことからクロマグロ宿主として優れた性質を有している。そこで本年度は、クロマグロ精巣から調製した精巣細胞を、8-10 dphのスマ雑種仔魚の腹腔内へ移植し、スマ×タイセイヨウヤイト雑種がクロマグロ配偶子を生産可能であるか調べた。10ヵ月齢まで養成したオスのスマ×タイセイヨウヤイト雑種宿主46尾から精液を採取し、クロマグロ精子特異抗体による免疫染色によってドナー由来クロマグロ精子の有無を解析した。その結果、4/46個体(8.7%)の精液からクロマグロ精子特異抗体陽性の精子が検出された。さらに、クロマグロ精子生産個体を含む宿主魚集団から得られた胚体形成卵18,300粒(100粒プール×183サンプル)をマグロ特異的なPCRに供した結果、1サンプルからクロマグロDNAが検出された。この陽性サンプルにはスマ雑種卵とクロマグロ精子の受精により発生した胚が含まれており、スマ雑種宿主が生産したクロマグロ精子は受精能を有し、卵に発生能を付与できる機能的な精子であることが明かになった。以上の結果から、尾叉長40cm程度の小型のスマ雑種が、わずか10カ月の間にクロマグロ精子を生産可能であることが明かになった。クロマグロ配偶子を異種宿主に生産させることに成功したのは本研究が初めての事例である。今後はクロマグロ配偶子の生産効率改善に取り組んでいく予定である。
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