研究実績の概要 |
本研究では、穏和な加熱により無触媒でも可逆的に開裂可能なビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-イル)ジスルフィド(BiTEMPS)への硫黄導入反応に基づいた、高い損傷修復特性を有するポリマー材料の開発を目的として研究を行った。 まず、低分子モデル化合物を用いてBiTEMPSと単体硫黄との反応を行い、種々の測定の結果よりジスルフィド結合間への硫黄原子が導入されたことが示された。元素分析により反応前後における硫黄元素比の変化を評価した結果、モデル化合物においては最大で硫黄が平均5原子連なったオリゴスルフィド結合が生成可能であることが明らかとなった。また、質量分析結果から生成物は複数の異なる硫黄数のBiTEMPS誘導体から構成されていることが分かった。この結果から、本反応は連続的なS-S結合の組換えを伴って特定の統計比に収束する機構で進行することが示唆された。 次に、高分子中に導入したBiTEMPS部位における、単体硫黄を用いたオリゴスルフィド化反応について検討を行った。骨格としては合成の簡便性を考慮し、BiTEMPS骨格を繰り返し単位に有するポリウレタン(PU-B)を合成した。PU-Bに対して種々の当量の単体硫黄を作用させたところ、低分子系と同様にオリゴスルフィド化反応が進行したことを支持するデータが種々の測定により得られた。続いて、反応前後における結合交換特性をポリウレタン-低分子間の結合交換反応により評価した結果、オリゴスルフィド化後の方がより迅速に反応が進行する結果が得られたことから、BiTEMPSのオリゴスルフィド化反応によって結合交換特性が向上したことが明らかとなった。 以上、低分子および直鎖状高分子系でのモデル検討から、本研究目標の実現性を支持するデータが得られた。現在これらの結果に関する論文を執筆中であり、近日中に学術誌に投稿する予定である。
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