研究課題
特別研究員奨励費
本研究は,化学動力学系の相空間構造を有向グラフによって近似的に表現し,そのグラフ構造に基づいて化学反応過程を解析することで,化学反応制御の理論的指針を与えることを目的としている.本年度は,昨年度定式化した非断熱化学動力学系の相空間構造の有向グラフ表現の理論的基礎付けを再検討し,有向グラフ表現の新しい計算手法を開発・実装した.これにより,有向グラフ表現に基づく化学反応過程の理解・予測の枠組みとしての理論的完成度と予測精度の向上を達成した.非断熱化学動力学は一般に複雑な様相を呈するが,本枠組みに基づけば複雑な過程も視覚的に捉えられ,従来解明が困難であった化学反応過程の機構を直観的に理解することができる.この新しい理論的枠組みに関する論文は現在投稿準備中である.本年度はさらに,昨年度見出したアルカリハライド分子光解離反応における冪的挙動に関して,議論を一層深めて,その成果を論文として出版した.有向グラフ表現に基づく解析により,この冪的挙動は化学動力学系の相空間構造と核波束の量子干渉効果に起因するものであることが分かった.この反応は,相空間構造のパターンが反応速度に大きな影響を与える例となっている.この例のように有向グラフ表現に基づく枠組みによって相空間構造と反応速度の関係が理解できるということは,本枠組みが化学反応制御の理論的指針の導出に有用である可能性を示している.上記のアルカリハライド分子光解離反応における冪的挙動の発見と機構解明は,当初の計画になかった成果である.一方で,当初計画していた有向グラフ表現に対するグラフ理論的解析手法の適用に関しては,有向グラフ表現の理論的定式化の部分に時間がかかったため,十分な成果がまだ得られていない.有向グラフ表現の化学反応制御問題への体系的応用は,今後の課題である.
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
The Journal of Chemical Physics
巻: 149 号: 17 ページ: 174313-174313
10.1063/1.5048957