研究実績の概要 |
バクテリアの運動器官であるべん毛は時計回り(CW)と反時計回り(CCW)の両方向に回転することができるモーターである。その回転は、回転子中のC-ringと固定子と呼ばれるタンパク質複合体の相互作用により、細胞膜内外の電気化学ポテンシャルを運動エネルギーに変換することで生じる。C-ringは、3種類のタンパク質[FliG, FliM, FliN]からなり、固定子はNa+イオンチャネルとして働き2種類の膜タンパク質「PomA, PomB」からなる。この中で、FliGは、PomAとの相互作用によるエネルギー変換と、自身の構造変化による回転方向の制御を担っている。しかし、この相互作用や構造変化の詳細は明らかとなっていない。申請者は、CWまたはCCW状態での回転子の構造を比較することで、モーターのエネルギー変換の仕組みを解明するべく、これまでに電子線トモグラフィー法(Cryo-ET)と核磁気共鳴法(NMR)による構造解析を進めてきた。 Cryo-ETでは、米国Yale大学所属のLiu博士のグループと共同研究を進め、得られていた構造情報を基にC-ringの密度マップを作製し、FliG, FliM, FliNの構造を当てはめた。CWとCCWでC-ringの傾きや各分子の配置が異なることが示唆された。この内容を論文にまとめ、現在査読中である。 NMRでは、高圧条件下でのFliGmc断片の解析を行った。圧力に依存した構造変化がみられ、その残基の特定を進めている。 最終年度は、固定子の振る舞いを明らかにするべく、解析を行った。機能解析や精製条件の検討からPomAのFliGとの相互作用領域がNa+依存的に構造変化すること、PomBのPlug領域がPomAとPomBの相互作用を変化させることでチャネルの開閉を制御することを明らかにした。各内容は論文にまとめ、J.Biochemに投稿し受理された。
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