本研究ではGaInAsP半導体の発光が表面電荷に応答する原理に基づき、蛍光や酵素などのラベルが不要で、スペクトル分析も不要な簡易なバイオセンサを提案、実証した。前年度は、GaInAsPナノレーザを用いて、精神神経疾患のバイオマーカとして期待されるCRMP2 (Collapsin Response Mediator Protein 2) の検出を検討し、実際の医療診断で求められる濃度と同程度の検出限界濃度での検出を達成した。本年度は、さらなる高感度化と信号対雑音比の向上を目指し、GaInAsP半導体のフォトニック結晶構造に工夫を加えることによる、イオン感応性の増大の理論の構築と高性能化を図った。まず、半導体に蜂の巣構造型フォトニック結晶構造を導入し、より大きな表面積体積比と光の取り出しが得られる構造を時間領域差分法によって予測した。その結果、蜂の巣構造の1つの円孔を6つの小円孔で置換した構造が有望であることが予想された。これは、表面電荷の応答性の由来である表面再結合の変化により生じる発光強度の変化を最大化できるためである。実際にこの構造を製作し、表面電荷への応答性に対応する、溶液のpHを変えたときのシグナル変化を測定した。フォトルミネッセンス、レーザ発振光のいずれの場合においても、pH感度はフォトニック結晶パターンのない場合と比べて増大し、前者の条件において、実用上の目標値であるpH分解能0.01を達成した。レーザ発振時においては、弱励起動作で約41倍の感度増大、強励起条件では最大で約5倍の信号対雑音比の増大を確認した。以上の結果から、GaInAsP半導体のフォトニック結晶構造に工夫を加えることによる高性能化を実証し、医療診断、化学分析などの幅広い応用に有望であることを示した。
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