研究実績の概要 |
本研究は、ベルクソン哲学における様相概念の研究を目的とし、なかでも、潜在性と可能性という、これまでベルクソン哲学において重要とされてきた二つの様相概念に着目した。その検討の結果、ベルクソン哲学において潜在性概念は重要な役割を果たしておらず、その点でドゥルーズの解釈は大きく修正されるべきであること、また、可能性概念は確かにベルクソン哲学の核をなしており、ベルクソンは、創造に関しては「なされる前から可能であった」という言い方が意味をなさないことを、その哲学のコアをなすさまざまな原理を導入しつつ示そうとしていることが分かった。この成果は"Bergson on Virtuality and Possibility"としてまとめられ、Sinclair and Wolf (eds.), The Bergsonian Mind, Routledge, 2021に収められた。 最終年度には、『物質と記憶』第一章における論証を再構成し、そこで必然性や可能性といった様相がどのような役割を果たしているのかを分析した。その結果として明らかになったことのうち、特筆すべきは、「概念化不可能なことは実現不可能である」という原理をベルクソンが採用していると分かったことである。これはデカルトやライプニッツをはじめとする多くの合理主義者が採用している原理であり、ベルクソンの合理主義的な側面というこれまで論じられることのなかった点を明らかにしている点で重要である。この研究は"Bergson's Arguments for Matter as Images in Matter and Memory"としてまとめられ、国際査読誌Archiv fuer Geschichte der Philosophieに掲載されている(2023, Online Advance Publication)。
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