研究実績の概要 |
本年度は、これまでの研究のまとめを目指して作業を進めた。ドイツでの資料収集も短期および11月と遅い時期ではあったが、ベルリンでの他の会議の日程と合わせて渡独することで実施できた。 まず、ヴィンケルマンの『古代美術史』(初版一七六四)の根底にある、人間観および社会観の検討を進めた。またヴィンケルマンの『ギリシア芸術模倣論』では、ホメロス描く英雄像が、同時代のアメリカ先住民の身体に認められている。ヴィンケルマンにとって、身体の秀逸は内面の秀逸を示すものである。そもそも一八世紀を通して、ヨーロッパ人の倫理的堕落にたいする道徳的に「高貴な未開人」というトポスが流行した。ドイツではゲラートの『インクレとヤリコ』(一七四六)、ゾイメの『未開人の男』(一七九三)が有名で、インクレとヤリコの物語は、芝居や歌唱劇に仕立てられて、舞台化された。二次文献にあたるなかで、「高貴な未開人」像は北米インディアンだけでなく、アフリカから連れてこられた黒人(奴隷)にも投影されていることがわかった。この関連で、ヘルダーのBriefe zu Befoerderung der Humaitaetおよび、新たに発見した以下の三作品を検討した。 Der in dem wilden America von seiner Wildheit befreyete Europaeer […]. 1756; Die vernuenfftige Einfalt.[…]. 1766; Pocahontas. Schauspiel mit Gesang, in fuenf Akten. Jamestown, 1784. 全期間の研究のまとめとして、いくつかの作品の翻訳を付した一八世紀の人間論についての論文を構想している。
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