研究課題/領域番号 |
17K03618
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
理論経済学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大瀧 雅之 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (60183761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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研究課題ステータス |
中途終了 (2017年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2019年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2018年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2017年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 投機の泡 / 不良債権処理 / 国債の累増 / ケインズと財政政策 / ケインズ理論 / ラムジーの確率論 / 国債管理政策 / 財政規律 / デフレーション・ディスインフレーション |
研究実績の概要 |
無限の時間的視野を持つ二期間世代重複モデルをもちいて、次のことを証明した。非対称情報もとでの有限責任制では、次の既存研究とは異なった新しい意味でのバブルが発生する。すなわち従来の研究のバブル資産は利子裁定条件が課されていたために、その収益率(言い換えれば、単位時間当たりのバブルの膨張率)は安全資産のそれと等しくならざるを得なかった。しかしこの性質は明らかに現実とは整合的でない。これに対して本研究でのバブル資産は、安全資産の利子率以上の収益を上げうるという点で、新たな理論的発展を含んでいる。
このようなバブル資産の持つ新しい性質は、以下の経済理論的考察によって裏付けることができる。すなわち簡単化のために安全資産の利子率を0とする。この時には、従来の理論では、バブル資産の収益率も0となる。しかしわれわれの理論では、期待収益率が0であっても、資産収益率が正となる確率があれば、バブル資産は購入され無数の投機の泡が発生する。なぜならば、有限責任制によって、ダウンサイドリスクは消し去られてしまうからである。
しかし実際には期待収益率が0であるわけであるから、大数の法則により、バブル資産の投資のうちある一定比率は、確実に負の収益を計上せざるを得ない。これが不良債権の正体である。これら不良債権の受け手は民間には決して現れないから、政府が不良債権を買い取らざるを得なくなる。この資金を増税によってファイナンスしなければ、必然的に公債の累増を引き起こすことになる。このように投機の泡の破裂の陰には、必ず公債の累増がつきものであることは、1990年代の日本経済を見れば直ちに明らかなことであり、それが理論の現実妥当性を裏付けていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は3冊の書籍を刊行した。いずれも本研究課題に沿うものであって、稔り豊かな一年であったということができる。一冊は『ケインズとその時代を読む:危機の時代の経済学ブックガイド』(加藤晋東京大学准教授との共編著:東京大学出版会)である。この本では他の執筆者と協力して、ケインズのいくつかの著作を、その思想的かつ時代的背景にまでさかのぼって考察した。かつ平明な記述を心掛け、より多くの人にケインズ経済学の現代的意義を理解してもらうよう努めた。
二冊目は堀内行蔵法政大学名誉教授と“Doctor Osamu Shimomura's Legacy and the Post War Japanese Economy”(Springer)である。大蔵省出身のエコノミスト下村治博士は、池田内閣の『所得倍増計画』の指針を築いた人物であり、高度経済成長期のマクロ経済政策立案に大きな影響を与えた。しかしそのアカデミックな評価は十分になされてきたとは言い難い。そこで時代背景を十分に考慮しながら、彼のケインズ経済学的成長理論とその経済哲学的内容まで含んで執筆した。この際特に強調したのは、下村理論とその先駆者とみなせるハロッド・ドマー理論の違いである。ハロッドらは資本主義経済が生来不安定であることを示すことに力点があったが、下村博士はその逆で、民間の旺盛な経済活動意欲を認めたうえで、それを補正すべく政府がいかに行動すべきかを分析したのである。これは従来完全に欠落していた視点である。
三冊目は勁草書房から上梓された『経済学』である。本書は平成23年度の課題番号23530214および平成26年度の課題番号26380232からの一貫した研究テーマであるケインズ経済学の動学的再定式化を平易に学部学生向けに紹介したテキストである。これによって本研究の成果がより広い層に理解されるようになると考える次第である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の日本語での研究成果はほぼまとまったと考えられる。したがってかねて契約を結んでいるアメリカのLexington Books社との“Speculative Bubbles and Monetary Policy: A Theory Based on Japanese Economy”を仕上げたいと考えている。構成は次のとおりである。
Part1は第一章ただ一つからなり、1980年代から2010年代わたるほぼ40年間の、日本経済の歴史を論理的に紹介する。Part2は4つの章からなり、Part1での歴史的叙述の裏付けとなっている理論を解説する。まず第二章では、ケインズの『一般理論』に対して新しい理論的解釈が施され、古典派の第二公準を認めても、ケインズ経済学が成立することが示され、ケインズ経済学あるいは有効需要理論にとって決定的に重要なのは、投資主体と貯蓄主体の意思決定の分離であることが、厳密に理論的に明らかにされる。
第三章は、本年度開発した投機の泡と公債の累増の理論が紹介される。特に留意すべきは公債の発行には、「異世代間の倫理」が問われるということである。つまり投機の泡の後始末を後世に回せるなら、どの世代にも投機の泡を起こす経済的動機が芽生え、国民経済は必ずや財政破綻へと追い込まれてしまう危険が高いのである。第四章は、なぜ意に反し「異次元金融政策」がディスインフレーションを引き起こしているのかを解説する。ここで重要なのは、「異次元金融政策」によって民間に供給される巨額の貨幣は誰かが受け手となることである。このためには貨幣保蔵が有利とならねばならないから、結局ディスインフレが生じざるを得ないのである。第五章は自己実現的期待としてケインズ経済学的な経済の見方が貨幣数量説から比べて、はるかに自然であることをラムジーの確率論を用いて論証する。
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