研究課題/領域番号 |
17K04580
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
教育学
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
櫻井 歓 日本大学, 芸術学部, 教授 (60409000)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2018年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2017年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 勝田守一 / 梅根悟 / 奥平康照 / 山びこ学校 / 道徳教育 / インタビュー / 自主的判断 / 同調圧力 / 藤田昌士 / 自主性 / 西田幾多郎 / 読書 / 宮澤康人 / 戦後教育学 / 堀尾輝久 / 総合学習 / 総合的な学習の時間 / 教育科学研究会 / 京都学派 / 天野貞祐 / 問題解決学習 / 政治的リテラシー / 教育 / 哲学 / 政治 |
研究実績の概要 |
2022年度には、新たに教育学研究者1名への聴き取り調査(インタビュー)を実施したほか、戦後日本の教育学者勝田守一(1908-1969)の思想を現在の視点から読み直す発表を行った。本年度の研究実績を分節化すると概ね以下の通りである。 (1) 本研究の方法論上の特色の一つである聴き取り調査に基づくテクスト創出の一環として、2022年4月から11月にかけて奥平康照氏(和光大学名誉教授)に連続5回のインタビューを実施した。奥平氏は東京教育大学において学問上の自己形成を遂げ、教育科学研究会の道徳教育研究をリードしてきた研究者の一人である。インタビューは大要以下の調査内容で実施した。(a)自身の生い立ちに遡っての自己形成・思想形成、および(b)教育学者梅根悟(1903-1980)との関わりを含め〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関についての奥平氏の見方。概ね奥平氏のライフヒストリーに沿って聴き取りを行い、梅根悟との関わりや、自身の著書『「山びこ学校」のゆくえ』(2016年)のことなどを含めて、多岐にわたる内容について語っていただいた。インタビュー内容は現時点では未発表であり、2023年度にインタビュー記録冊子にまとめ、教育学関係の学会発表などの形で公表していく予定である。なお、インタビューに際しては田口和人氏(桐生大学)の協力を得た。 (2) 2022年8月の第60回教育科学研究会全国大会の教育問題フィーラムB「勝田守一の教育学と現代」において、「自主的に判断することの難しさ――「マスク社会」のなかで勝田教育学を読み直す」とのタイトルで発表を行った。本報告では、同調圧力という社会的規制の強いこの国で自主的に判断することは容易ではないとの問題意識のもと、勝田のテクストの発展的読解を通じて、矛盾・対立する諸価値を顕在化させて自主的判断を励ます学校教育の役割と、そこでの教職の専門性について提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度までの進捗状況は「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない。 本研究の全体的な目的は、近代以降の日本教育思想史における〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関について、三つのテクスト群から読解することである。三つのテクスト群とは、(1)西田幾多郎のテクスト、(2)京都学派の系譜に属する哲学者・教育学者・教育実践家らのテクスト、ならびに(3)戦後教育に携わった研究者や実践家らへの聴き取り調査より創出されるテクストである。 このうち第3群の聴き取り調査(インタビュー)に関しては、3名の教育学研究者へのインタビューに基づく記録冊子を2019年度に発行したことは大きな成果と言える。その後、2020年以降のコロナ禍による全般的な研究活動の停滞と、研究期間の延長・再延長を経て、2022年度には上掲「研究実績の概要」に記載した奥平康照氏への連続インタビューを実施できたことも一定の成果である。ただし、本年度中に記録冊子にまとめるには至らず、冊子の発行と研究成果の発表は次年度の課題となった。また、本年度までに実現したいくつかの論文発表や、学会・研究会での発表により、第2群や第3群に関していくつかの研究業績を作ることができたが、学術的に十分な研究成果であるとは言い難い。 さらに、第1群の西田のテクストに関しては、筆者が年来取り組んできた領域でありながら、本研究課題では未だ学術的な研究成果を挙げられていないのが実情である。こうしたなか、ある出版企画により西田の思想を一般読者向けに紹介する小著の執筆機会を得ることとなったことは、関連する研究活動として一定の成果である(2023年4月出版予定)。この企画は本研究課題とは別個のものであり、学術的な研究とは言えないものの、西田の思想の解釈を進める切っ掛けとなるものであり、次年度の本研究課題の進展に繋げていきたい。 以上を総合的に評価して「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
前項に記載の通り、進捗状況は「やや遅れている」と自己評価しており、その理由としては、概ね(1)本年度(2022年度)新たに聴き取り調査を実施できたものの、年度内にインタビュー記録冊子の発行まで至らなかったことや、(2)全般的にみての学術的研究業績の不十分さ(とりわけ西田思想研究の立ち後れ)、といったことに集約される。また、2020年以降のコロナ禍は全般的な研究活動の停滞をもたらしたが、これによる研究期間の延長・再延長はかえって研究期間の終了までの時間的余裕を生み出し、次年度に研究活動を発展させる可能性が生まれているとも言える。こうした状況認識のもと、今後の研究の推進方策を以下のように考えている。 (1) 2019年度に発表したインタビュー記録『教育学研究者の自己形成と戦後日本の教育学』の言わば続編として、2022年度に実施した奥平康照氏への連続インタビューの記録を編集して記録冊子を発行し、2023年度に教育学関係の学会発表などの形で公表していく予定である。オーラル・ヒストリーによるテクストの創出は近年の教育学研究の動向にも呼応するものであり、インタビューにより創出されるテクストは、現代日本の教育と教育学研究に関する貴重な証言となるに違いないと考えている。 (2) 相対的に後手に回っている西田幾多郎のテクストの研究を進展させることは、依然として重要な課題である。例えば、西田の最後の完成論文「場所的論理と宗教的世界観」(1945年執筆)を国家論的観点から再検討し、人間形成における個と共同性の相剋という根本的テーマに迫ることは年来の課題となっている。そのほか、西田のいくつかの論文について教育学的読解を進めていくことが課題となっている。現時点で詳細を明らかにすることは控えなければならないが、次年度に向けて学会発表や論文執筆・投稿といった形で研究を推進していく可能性を検討している。
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