研究課題/領域番号 |
17K04712
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
教育社会学
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2018年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2017年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 個性 / 個性調査 / 言説編成 / 歴史社会学 / 学校的社会化 / 小学1年生 / 児童 / 教師 / 小学1年生 / 学校儀式 / 教育勅語 / 感情の共同体 / 唱歌 / 教育学 / 教育社会学 |
研究実績の概要 |
日本の近代学校において「個性」概念が普及・浸透した過程を捉えるため、「家庭」と「小学1年生」に着目して研究を進めた。 1900年代に入り、教育活動の一環として個性調査が普及していく中で、学校は家庭を個性の原因と捉えて家庭調査に力を入れていく。一方、大正期の新中間層など「教育する家庭」と呼ばれる一部の家庭は次第に学校に適合的な子育てを行うようになった。当初は心理学・教育学をリードする者たちの言説であった「個性」概念が学校に浸透し、学校から家庭への働きかけや保護者向け雑誌・書籍を通して広まるのである。さらに、戦後高度経済成長期の「教育ママ」を経て、育児が学校への予期的社会化の様相を色濃く帯びるようになる。親たちは、我が子の「個性」を大事にしたいという思いと、我が子が学校の集団生活に馴染めるようにという思いの両立に、ときに悩みを抱えることとなる。 こうした「個性」をめぐる学校と家庭の交点を捉えるため、はじめて学校生活を経験する小学1年生という存在に注目し、「学校的社会化の歴史」の視点から分析を進めた。制度上小学1年生が出現するのは第二次小学校令期だが、それ以前の学制期・教育令期はもとより、近世期の教育機関における新規参入者に対する扱いをも比較参照し、現代に至るまでを見通すべく、教育言説の分析に取り組んだ。その結果、近代学校と家庭がいかにして「子ども」を「児童」にしてきたのか、そこに個性調査や家庭調査がどうかかわったのかを浮かび上がらせることができた。 本研究は「学校的社会化の理論的・経験的研究『児童になる』論理と実践の教育社会学的探究」(基盤研究(B)18H00990代表者:北澤毅)との協力関係をもちつつ進めてきた。2022年度の研究成果を基に、両科研合同での研究成果報告書『学校的社会化の歴史と現在2―「児童」と「学校」の再帰性』を纏め、研究協力者とともに4編の論文を掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染症の影響の長期化により、本研究にとって重要な地方史資料の調査収集、聞き取り調査は大きく制約を受けてきた。そうした中でも、①個性調査を中心とする地方一次史料の収集・分析再開と、教育雑誌の「個性」関連記事、教育書、育児書、学習雑誌等の文献収集実施、②すでに日本各地で収集し、画像データとして蓄積している学校文書の分析を中心として、研究を推進してきた。 「個性」が教育上の重要課題として浮上する前提として、心理学と教育学ないしは教育実践との結合、家庭と学校との連携あるいは対立といった問題が存在したと考えられる。そのうち、後者の「家庭と学校」の関係に重点を置いて史料収集と整理、考察を行ってきた。とりわけ、家庭と学校の接点が最も顕在化するのが「小学1年生」であり、入学に至るまでの子育てや準備、入学後の注意は家庭向け育児書や児童雑誌において、入学式の準備から入学後の取扱は教師向けの教育書や教育雑誌において、数多の言説が生み出されてきた。また、家庭と学校の関係については、先行研究の蓄積も厚い。そこで、明治期から高度経済成長期にかけての代表的な教育雑誌、育児雑誌、児童雑誌から関連記事を体系的に収集する作業を継続した。また、先行研究についても、より対象を広げて押さえるよう努めた。 加えて、「個性」に関連する教育事象についても多面的に分析を行った。具体的には、「児童虐待」「児童保護委員」「英米学校管理論の受容」「学級編制」などの切り口を通して、「個性」が見出されていく場に関する言説と史資料を基に考察し、論文として成果を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を総括して知見の整理と成果の発表を行う予定であり、具体的には以下の3点を目標に据えている。 ①単著(新書)として出版企画が決定している『1年生はつらいよ』では、さまざまな集団における新規参入者の社会化の様相や、新規参入者が抱くリアリティショックなどを通して、「1年生のつらさ」を分析し、それを乗り越え(させ)る思考を提示する。本書は、2023年度中の刊行を目指している。 ②同じく単著として出版企画が決定している『小学1年生の歴史社会学』(仮)では、書籍や雑誌等により流布した公的な言説と実践の場で記録された一次史料を活用し、小学1年生という存在の歴史的過程をたどる。加えて、現代において「児童になる」ことの意味と「児童にする」実践、およびその実践がもたらす帰結を分析し、子どもたちが経験する「歴史的身体」の不可避性を考察する予定であり、その執筆準備を進めたい。 ③これら目標達成に向けて、小学校での観察調査、小学校教員への聞き取り調査、史資料の収集と分析、文献研究を継続する予定である。それと並行して、これまでに日本各地から収集し、画像データとして蓄積している学校文書をはじめとする各種史資料を参照しつつ、研究成果の公表に結実させたい。 なお、これらのデータを今後の研究につなげていくためには、これまでに収集した音声データ、映像データ、一次史料などを集約したデータベースの構築が最大の課題となる。そのため、次の研究課題を設定し、安定して研究を継続できる条件を整備する必要がある。
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