研究実績の概要 |
交通事故等により中枢神経である脊髄を損傷した脊髄損傷者の多くは、交感神経機能の不全のために、受傷部以下の発汗、血管運動等の自律性体温調節機能が麻痺している。特に頸部の脊髄を損傷した頸髄損傷者(以下、頸損者)は、その麻痺がほぼ全身に及んでいるため、深部体温が環境温度の影響を受けて変動しやすい。頸損者の重篤な体温調節障害は、社会進出を阻害する要因の一つになっているため、頸損者の温熱環境の計画及び評価方法を策定する必要があり、その中でも特に季節別の室内の至適温湿度範囲を喫緊に推定する必要がある。そこで、頸損者10名を対象とした人工気候室実験より、頸損者の中間期(春期、秋期)の至適温湿度範囲を推定することを本研究の目的とした。 曝露した環境条件は一人あたり9条件(室温22℃-相対湿度40, 50, 70%、室温24℃-相対湿度40, 50, 70%、室温26℃-相対湿度40, 50, 70%)とし、1温湿度条件の曝露時間は90分とした。衣服は実験専用のものを使用し、断熱性能は0.6clo(春と秋の季節に対応する中間期の着衣の断熱性能に相当)とした。実験は日本大学生産工学部と国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている人工気候室で行った。 最終年度にあたる2023年度は、中間期、且つ相対湿度40%の至適温度範囲を推定することを目的とした人工気候室実験を行った。その結果、曝露時間90分間における学生群の口腔温変化量(実験開始時と終了時の口腔温の差)の平均値は、どの室温でも±0.2℃以内に収まっている傾向にあった。一方頸損者群の口腔温変化量の平均値が、標準誤差も含めて±0.2℃以内に収まっていたのは、室温24℃と26℃であった。 相対湿度50, 70%での人工気候室実験でも同様の結果が得られた。従って、頸損者の中間期の至適温湿度範囲は25±1℃、相対湿度40~70%と推定された。
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