研究課題
基盤研究(C)
アデノシンは中枢神経系における主要な神経修飾因子であり、シナプス前抑制やシナプス可塑性に関与する。また、中枢神経系以外においてはアデノシンの血管拡張作用や抗炎症作用が知られている。我々はアデノシンに対するバイオセンサーを開発し海馬スライスにおけるアデノシン放出がL型カルシウムチャンネルに依存した神経細胞の経路と、水チャネルAQP4に依存したアストロサイトの経路によることを明らかにした。本研究ではAQP4依存経路についてコカイン投与に伴うドーパミン神経伝達の変調、および脳損傷周辺の興奮性に関して検討を行った。コカインに関しては急性期の覚醒作用と禁断症状として発現するうつ様行動がAQP4欠損マウスにおいて消失することが明らかとなった。さらに線条体スライスにおけるアデノシンまたはドーパミン放出を測定したところ、コカインの禁断症状はAQP4依存的なアデノシン放出の増加と、これに伴うドーパミン放出の減少を引き起こすことが明らかとなった。さらに、前頭前野内側について同じ検討を行ったところ、AQP4依存的な何らかのプロセスにより、アデノシンによるドーパミン放出の調節がコカインにより不全に陥ることが明らかとなった。一方、脳損傷に関しては、独自に開発した閉鎖性頭部外傷モデル「光傷害マウス」の損傷周辺において、損傷 4日で神経活動の亢進が見られ、これがAQP4依存性アデノシン放出の減少に起因していることが明らかとなった。これらの結果はAQP4依存的アデノシン放出の変調が精神、神経疾患の背景にあることを初めて示したものである。
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