研究課題
基盤研究(C)
Poly(A)尾部はmRNAの3’末端に付加されるアデノシンの連続配列であり、その長さはmRNAの安定性や翻訳効率制御に重要であるが、詳細な遺伝子発現の制御機構、疾患との関連性は未解明な点が多い。本研究では、poly(A)鎖の長さがmRNAの安定性と発現量、さらには転写を制御する分子基盤の包括的な解明と、その生理的意義の解明を目的とした。そのため、poly(A)鎖短縮酵素CCR4-NOT複合体の足場蛋白質であるCnot1遺伝子の欠損肝臓、ならびに、脂肪組織をpoly(A)鎖の長さの制御が破綻したモデルとして用いた。そして、Cnot1欠損肝臓・脂肪組織における、mRNAの発現量、安定性、転写の変化をRNA-seqにより網羅的に解析した。この結果、Cnot1欠損肝臓では、通常状態で、低~中程度発現する細胞死、炎症、転写に関わる遺伝子群のmRNAでは安定化と転写活性化がみられ、発現量も増加していた。一方、通常状態で、高発現する代謝関連遺伝子群でも、mRNAの安定化は見られたが、転写の減少が確認され、発現量は低下していた。これら発現変動は、①細胞死、炎症に関連する正の転写因子のmRNA安定化による発現上昇、②細胞死、炎症関連遺伝子のmRNA安定化ならびに転写活性化による顕著な発現上昇、③プロモーター上のRNAポリメラーゼの減少による転写の不活化による代謝関連遺伝子の発現減少により誘導されていた。そして、これら遺伝子の発現変化は、致死性肝炎を誘導した。Cnot1欠損脂肪組織でも、詳細な分子機序は明らかではないが、同様の遺伝子発現変動が見られ、脂肪萎縮症を呈していた。以上より、肝臓ならびに脂肪組織において、mRNA安定性ならびに転写を適切に制御し、これら組織の恒常性を維持するためには、細胞内のmRNAのpoly(A)鎖の長さを適切に保つことが必須であることを示した。
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Science Signaling
巻: 11 号: 516 ページ: 3638-3638
10.1126/scisignal.aan3638