研究課題
若手研究(B)
2023年度は、本研究を以下の2本の柱で遂行した。第1の柱は、ミルの著書『代議制統治論』(第1版1861年、第3版1865年)に関する草稿資料(1860年頃)の分析も踏まえて、英語論文を執筆することである。本研究では、『代議制統治論』の草稿資料と第1版の該当箇所との異同をすべて記した資料を完成させ、その分析を進めてきた。それによって、『代議制統治論』の中で相対的に注目されにくい箇所(第16~18章の対外政策論)を、ミルは他の箇所と比べても大幅に増補していたということ、その中でもミルはブリテンによる植民地などの統治に関連する箇所を重点的に増補していたということ、そしてその際にミルは植民地の住民に対する補償策の重み付けを変更していたということが明らかにされた。2023年度には、こうした分析を完了させて、その成果を英語論文にまとめ、国際的な論文集の1つの章として刊行した。第2の柱は、経済学に関するミルの代表的な著書『経済学原理』(第1版1848年、第7版1871年)について、ブリテンによる植民地などの統治を視野に入れた上で、その全体像を再構成することである。『経済学原理』においてミルは、富の生産量の増加(=経済成長)が停止する状態――いわゆる停止状態――を肯定的に評価した上で、一定量の富の分配を改善して貧困を撲滅することをめざした、と一般的には解釈される傾向が強い。それに対して本研究では、国際分業に基づく全世界での経済成長の維持をミルが思い描いていた、という点が強調されるに至った。すなわち、幼稚産業育成のための一時的な保護関税政策を考慮してもなお、当時のブリテンなどの最先進国が工業に、その植民地や発展途上国などが農業に少なくとも当面はそれぞれ重心を置き、自由貿易を通じてすべての国が富の生産量を増加させると共にその恩恵に浴する、という構図をミルは提示していた、と考えられる。
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