研究課題/領域番号 |
17KK0020
|
研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)
|
配分区分 | 基金 |
研究分野 |
地域研究
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
野村 奈央 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (10709588)
|
研究期間 (年度) |
2018 – 2024
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
14,430千円 (直接経費: 11,100千円、間接経費: 3,330千円)
|
キーワード | 地域研究 / 物質文化 / 消費文化 / 民族誌 / 再洗礼派 / アーミッシュ / 宗教 / アメリカ研究 |
研究実績の概要 |
2023年度にサバティカルを取得し異なる研究テーマで在外研究を行うため、8月末より科研費事業を休止することとなった。そのため、これまでに収集した一次資料の分析を中心に研究を行なった。具体的には、現地調査を再開した前年度に記録したフィールドノートを精査し、ペンシルバニア州ランカスター郡において急速に多様化するアーミッシュの消費活動の形態および経済的背景について分析をすすめた。 資料調査と並行して、学術論文の発表とアウトリーチ活動の準備を進めた。2023年5月に出版された『Religion, Attire, and Adornment in North America』(コロンビア大学出版)には、「Amish Vogue: Performing Fashion in the Plain World」が掲載された。本論文では、近年研究が盛んになってきたイスラム教徒の衣服を分析対象としたファッション研究の理論を用い、これまでの調査で収集したデータを分析、考察した。これによって、アーミッシュの共同体としての価値観や信仰の象徴として捉えられてきた衣服が、教会の規律を順守しながらも、個人を表現したり、自己を主張したりする行為となりうることを明らかにした。 本研究成果のアウトリーチ活動となるウェブサイトについては、引き続き、ネブラスカ大学マリン・ハンソン氏の助言を仰ぎながら、資料の精査を行なった。2023年4-6月にはハンソン氏が日本に滞在していたため、対面でウェブサイトのデザインについて意見交換をすることができた。 最後に、事業再開後に円滑に研究を遂行できるよう研究実施計画の見直しを行なった。とくに、主流アメリカ社会の消費文化がアーミッシュのアイデンティティに及ぼす影響については、アーミッシュが出版に関わっている女性誌を新たな分析対象として、引き続き、調査を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、アーミッシュの労働環境と階級、観光産業に従事するアーミッシュとジェンダー役割、アーミッシュによるメディアの利用とアーミッシュの政治思想という3つの観点から、アーミッシュ社会と主流アメリカ社会の境界における交渉を考察することで、現代のアーミッシュ像を描くことを目的としている。コロナ禍の影響を大きく受けたため、現地調査は当初の研究計画より修正、縮小した範囲で実施している。ジェンダーの視点から考察をしている労働環境と観光産業については、コロナ禍の影響を大きく受けていることが前年度の現地調査からも推察することができる。政治思想の考察に関しても、当初予定していた2020年の大統領選挙における現地調査は断念することとなった。その一方で、コロナ後のアーミッシュの政治観については新たな研究が展開できる見通しが立っている。アーミッシュは国政選挙の投票には行かないものの、その政治信条は共和党と極めて近いことは先行研究でも指摘されてきた。調査では、一部のアーミッシュが保守派キリスト教徒向けの政治雑誌を購読していることが判明し、近年のアメリカ政治の保守化との親和性は、より具体的な行動に現れていることが明らかになってきた。来年度の現地調査と資料調査では、コロナ禍がアーミッシュ社会に与えた影響を探りながら、アーミッシュ・コミュニティとアメリカ主流社会の相関関係を解明していきたい。また、本研究成果のアウトリーチ活動として進めているウェブサイト設計についても、ネブラスカ大学国際キルト研究所マリン・ハンソン氏との共同作業を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度、現地調査が再開できたことで、コミュニティを尊重し、個人的な意見を主張することが少ないアーミッシュとは、直接対話をし、会話の行間から見えてくる微細な情報を得ることが重要であることを再認識した。そのため、今後も、これまでの調査で築いてきたアーミッシュ・コミュニ ティでのネットワークを利用し、アーミッシュの生活に溶け込んでフィールドノートを作成する参与観察を実施する予定である。4年に及ぶコロナ禍の影響により、共同研究者の健康状態や勤務状況に変化があったが、これまで共同で収集したデータや分析からは十分な結果を得ることができている。来年度は、アウトリーチ活動の共同研究を重要視し、共同研究者を変更する予定である。現在は、アーミッシュ向けに発行されている新聞が唯一デジタル化されているオハイオ州ホームズ郡にある図書館での調査、ペンシルバニア州ランカスター郡のアーミッシュコミュニティでの現地調査、ネブラスカ大学での共同研究実施に向けて、日程調整を進めている。
|