研究概要 |
本研究は,ヒト癌の発生過程における活性酸素産生遺伝子Noxファミリーの生理的意義を解明し,癌治療・診断・予防の基礎を確立することを旨とする。我々の過去数年間の研究により,Nox1が,Ras-MAP経路を介してRas発癌を媒介し,またNox1やNox4が大腸癌や膵癌において高発現し,抗アポプトシス活性を示すことが明らかになった。このことから,Noxファミリーは,癌化形質の維持に必須であることが推察された。 本研究の前期では,Nox1によるLMW-PTP-Rhoを介したRas癌細胞の形態と接着の分子機構を解明した。また,Nox1の転写因子として,GATA-6を同定し,Ras-MAPKを介したリン酸化による調節機構を突き止めた。 後期に相当する本稿では,1)Nox1によるVEGFの発現調節,2)メラノーマにおけるNox4の増殖制御機構,3)GATA-6によるNox1発現誘導の生理的意義について,大きな進展がみられた。 項目1:RasVal-12-ERK経路による転写因子Sp1を介したVEGFの発現誘導は,Ras癌細胞の増殖・浸潤に重要である。Nox1の産生するROSは,RasVal12によるERKの恒常的活性化を維持して,VEGF発現の亢進に寄与することを明らかにした(Oncogene,in press,2008)。項目2:Nox4が,G_2-M cell cycle progressionを駆動してメラノーマ細胞の増殖を促進することを明らかにした。Nox4を阻害すると,cdc25cが高度リン酸化を受けて,14-3-3蛋白と結合する結果,cdk1が不活化され,G_2-M arrestを招くことを明きからにした(投稿中)。項目3:大腸癌細胞で,Ras-ERK経路の活性化により,GATA-6がリン酸化されNox1の転写が誘導される。この際,GATA-6のリン酸化が,細胞増殖に寄与する少なくともひとつの因子であることが示された(Oncogene,in press,2008)。
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