研究概要 |
細胞膜ラフトには癌遺伝子産物を含む様々なシグナル伝達関連分子が集積するため、ラフト構造の破綻は細胞分化・増殖の異常の原因となると推測されている.しかしラフトを解析する手段はきわめて限られており,生細胞でのラフトの実体は長く論争の渦中にある.本研究では,微弱な分子間相互作用で形成されている可能性の高いラフトを解析するため,細胞膜分子の動態に人工的な変化をもたらしうる処理やプローブを使わずに解析する方法の開発を進めてきた.本年度の成果は以下の通りである. 1)生化学的にラフトへの集中が推測されていたPI(4,5)P2は平坦な細胞膜では弱いクラスターを形成して存在すること,上記のクラスターはコレステロール抽出でやや低下するが,アクチン脱重合でほぼ完璧に消滅すること,PI(4,5)P2がカベオラ開口部に顕著に集中することなどが判明した.これらの結果は生細胞でのPI(4,5)P2の分布をナノスケールで初めて明らかにしたものであり,カベオラが平坦な細胞膜部分とは異なる特殊な領域を形成することを示した点で重要である. 2)PI(4,5)P2はv-Src発現細胞に形成されるinvadopodium周辺では少なかった.一方,invadopodiumに集積するPI(3,4)P2は細胞膜平面には少なく,おもに細胞骨格成分で構成される領域に分布することが明らかになった.このような結果は従来の方法では得られておらず,癌細胞の浸潤機構に示唆を与えるものである.
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