研究概要 |
生殖細胞は通常は配偶子形成のために高度に専門化された細胞であるが、発がんとともに奇形腫を生じ、Embryonal carcinoma細胞などの多能性細胞を産生する能力も併せ持つことが知られている。しかし生殖細胞の発がんと多能性ポテンシャルがどのように制御されているかは殆ど理解されていない。研究代表者は新生児精巣から精子幹細胞を試験管内で長期に増殖する培養系(Germline stem;GS細胞培養系)を確立し、その樹立過程でEmbryonic stem(ES)細胞と同様な奇形腫形成能をもつ細胞(mGS細胞)が出現することを見いだした。18年度の研究でこのmGS細胞がGS細胞が変化してできたものであることをクローナルな解析にて明らかにした。19年度の研究ではこの二つの細胞のepigeneticな差異を解析し、その変化の誘因を探求することを目的に実験を行った。具体的には以下のことを明らかにした。1)western blottingおよび免疫組織染色によりGS細胞とmGS細胞のhistone modification patternを解析し、一部のヒストンについて修飾に差があることが分かった。2)マイクロアレイ法などで遺伝子発現のパターンを比較し、GS細胞では多能性制御に関わると考えられている遺伝子群(Oct-3/4, Klf-4, Sox2, Mycなど)が低レベルながら既に発現しており、ES細胞と比較的近い遺伝子発現を持っていること、さらにmGS細胞に変化するとこれらの遺伝子の発現レベルが亢進し、ES細胞と極めて似た遺伝子発現をするようになることが分かった。3)生殖細胞の多分化能を司ると考えられているOct-3/4の発現調節領域をCOBRA(Combined bisulfite restriction analysis)により解析したところ、GS細胞からmGS細胞に転換する際、発現調節機構に変化が生じることが分かった。
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