研究概要 |
癌抑制遺伝子APCの不活化によりWntシグナル経路の伝達因子であるβ-cateninが細胞内に蓄積し,転写因子であるT-cell factor 4(TCF4)と結合し,TCF4の標的遺伝子の転写を活性化することで大腸癌の前駆病変である腺腫形成を生じると考えられている. 大腸癌発生のメカニズムを解明し,Wntシグナル伝達系を遮断する治療標的分子を探索するため,超低流速液体クロマトグラフィ-と高分解能質量分析機を用い,β-catenin/TCF4複合体の標的分子や複合体の構成分子を同定した. 1)β-cateninとTCF4転写複合体の標的蛋白質の網羅的解析 β-cateninとの結合部位を欠きドミナントネガティブにTCF4の転写活性を抑制するTCF4BΔN30を発現誘導できる大腸癌細胞を樹立し,蛋白質の発現変動解析を行い,TCF4BBΔN30の誘導により2倍以上発現が変動する蛋白質を80種同定した. それらの内,β-catenin/TCF4複合体により発現の制御を受けるsplicing factor1(SF1)はβ-atenin/TCF4複合体の構成分子でもあり,大腸癌細胞の転写活性と増殖を抑制した.また,β-catenin/TCF4複合体により制御されるER-βΔ5-6,WISP1v,FGFR3-ATIIなどのsplice variantの誘導に必須であることを明らかにした. 2)大腸発癌制御過程におけるSF1の役割 さらにSF1の発癌過程への関与を明らかにするため,ノックアウトマウスを作製した.野生型のマウスに比べ,SF1のヘミ欠失マウスは大腸発癌誘導剤のアゾキシメタンに対する感受性が著しく充進し,SF1の細胞増殖抑制効果を裏付けた.
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