研究概要 |
埼玉コーホート研究と原爆被爆者免疫コーホート研究を統合して,免疫,炎症,放射線被曝,発がんの関係を明らかにするのが本研究の目標である。原爆被爆者コーホート研究では,平成18年度に測定系を確立した3つの生体マーカーを用いて,放射線感受性の個人差,放射線誘発遺伝的不安定性,血漿中の活性酸素代謝産物総量の測定を進めている。血漿活性酸素代謝産物については,平成19年度に440人について測定を完了し,1)持続性炎症の程度と強く相関し,2)過去の原爆放射線被曝線量と正の相関を示すことを予備的解析により見出した。 また,埼玉コーホート研究により,発がんに対する免疫的防御の指標であるNK活性の主たる遺伝的要因が,活性型受容体NKG2D遺伝子領域のハプロタイプであり,発がんリスクとも関係することを先に報告した(Cancer Res,2006)。現在,各種サイトカイン,T細胞免疫等の免疫学的データが得られている原爆被爆者コーホート研究参加者を対象に,末梢血NK細胞およびCD8陽性T細胞におけるNKG2Dの発現をフローサイトメトリーにより測定し,NKG2Dハプロタイプとの関連だけでなく,炎症免疫、T細胞免疫との関係を検討している。これまでに,900人の測定を完了した。予備的解析により,1).NKG2DハプロタイプはNK細胞のNKG2D受容体の発現と強く関連しており,2)この関連はCD8陽性細胞においても同様に観察された。この結果は,NKG2DハプロタイプがNK細胞の細胞障害性だけでなくT細胞免疫の遺伝的要因として関与している可能性を示す。さらに,第2次埼玉コーホート研究で詳細な免疫マーカーの測定を行った450人について,持続性炎症にNK細胞活性,保存血清を用いて新たに測定した各種血清サイトカイン.活性酸素代謝産物がどのように関与するのか現在検討を進めている。
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