研究概要 |
トリ層状核(NL)神経細胞はシナプス入力の同時検出器として働き,両耳に到達する音の時間差(両耳間時間差:ITD)を検出することにより音源定位に関わる.NLには音の周波数に対応した機能局在があり,ITDは特徴周波数(CF)毎のNL細胞により検出される.本研究では,ヒヨコを用いてNLの機能解析をCF領域毎に行うことにより,音源定位の神経回路機構を明らかにすることを目指す.前年度までは主にin vitroの実験により,NLにおける細胞の形態,チャネルの分子密度および細胞内局在が,ITD検出を正確に行うためにCF領域毎に最適化されていることを明らかにしてきた. 本年度はさらに,in vivoの実験系を立ち上げ,NLにおけるITD検出機構を解析した.麻酔下のヒヨコの両耳にスピーカーから音提示を行い,脳定位的にNLからの単一細胞記録を行った.NL細胞の発火頻度はITDに応じて周期的に変化し,その周期は細胞のCFに一致した.一方,このITD応答は音圧に強く依存し,中〜高CF領域では音圧の増加に伴ってITD応答が消失するのに対して,低CF領域では逆に増強することが観察された.この低CF領域におけるITD応答の増強効果は,NLへGABA性投射を行う神経核である上オリーブ核(SON)を電気的に破壊することにより消失することから,SONからの抑制性入力を介すると考えられた.このことと一致して,NLの低CF領域ではSONからのGABA性神経終末が特に多く分布していた(図).以上のことから,NLでは抑制性神経回路がCFと音圧に依存してITD検出を最適化するしくみとして働くことを明らかにした.
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