研究概要 |
脳損傷後の運動訓練が上肢の機能回復に及ぼす効果を,“行動解析",“陽電子断層画像診断(PET)を用いた脳活動イメージング",“神経可塑性にかかわる遺伝子の発現解析",といったレベル縦断的手法を用いて解明することを目的とする。第一次運動野指領域の損傷後に積極的な運動訓練を行ったマカクザル個体群と運動訓練を行わなかった個体群の間で回復過程を比較した。全ての個体で損傷直後に指運動の完全麻痺が生じ,その後運動機能が徐々に回復した。損傷後2-3週間で両群ともに指の動きが多く見られるようになり,把握運動課題の成功率は,損傷前の4-8割程度にまで回復した。ただ損傷前は拇指と示指の対向による指先での把握(精密把握)が見られたのに対して,この時期には拇指と示指の対向が見られず,拇指の背側面で把持する代償的な把握が多く見られた。その後の1ケ月間に訓練群では代償的な把握の割合が減少し,精密把握の割合が増加するのに対し,非訓練群では代償的な把握の割合が高いまま推移し,精密把握がほとんど見られなかった。以上のことから,特に第一次運動野損傷後の精密把握の回復には,損傷後の訓練が必要であると考えられる。陽電子断層画像診断(PET)を用いて,上肢把握運動課題遂行中の脳活動イメージングを行ったところ,損傷前は第一次運動野に高い活動が見られたのに対し,運動機能回復後は運動前野腹側部に高い活動が見られた。さらに神経可塑性にかかわる遺伝子の発現解析を行い,神経成長関連タンパクの一つであるGAP-43の遺伝子発現が損傷後に運動前野腹側部で上昇することを明らかにした。これらの結果から,運動前野腹側部において,第一次運動野の機能を代償する可塑的な変化が生じた可能性が強く示唆される。
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