研究概要 |
脳が外界を再構成する際に,その空間構造を適切に把握することは生存において非常に重要な役割である。本研究課題では,特に上下方向の空間表現が,どのように我々の知覚に影響を与えているのかに焦点を当て,脳の空間把握メカニズムの解明を試みることを目標とする。我々はこれまで,逆さ絵とよばれる多義図形を用いることによって,我々の視知覚が鉛直方向に引きずられ,鉛直上向きが上であるように多義図形の見え方が変わることが示してきた(Yamamoto et al.,2006)。このように,これまで多ぐの研究によって,視知覚が鉛直方向の影響を受けるという証拠が多数上がってきた。 今回我々は,バイオロジカルモーション刺激と呼ばれるヒトの関節のみを点で表した動画の知覚が,鉛直方向の影響を受けているのかどうかを解明することを目標として実験を行った。被験者は正立,側臥位(右上,左上)の3種類の姿勢をとり,ヘッドマウントディスプレイ上に提示されるバイオロジカルモーション刺激として,網膜に対して,および空間に対して0°,±90°となるような7種類の刺激を用いた。被験者のバイオロジカルモーション刺激の検出力は,空間内での刺激の回転には影響を受けず,網膜像上での刺激の回転のみに影響を受けるというものだった。すなわち,より鉛直方向の影響を受けるタイプの刺激であるはずのバイオロジカルモーションの知覚がむしろ鉛直方向の影響を受けないということ示していた。本研究成果はバイオロジカルモーションの知覚の特殊性を示唆するとともに,空間知覚における新しい知見を与えるものである。
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