研究概要 |
PSPのPET所見については,多数の報告がなされているが,その殆どが臨床例で,剖検で確認を得ているものは少ない。また,進行性核上性麻痺(PSP)の形態画像所見としては中脳被蓋の萎縮が古くから指摘されており,臨床的に重要視されている。近年ではMRIの正中矢状断における被蓋/橋面積比を算出する方法が提唱されているが,病理学的裏づけには乏しい。我々はこの両者の所見を剖検例での確認を試みた。 FDG-PETでPSP全例に認める中脳,前帯状回,前頭弁蓋の糖代謝低下は,中脳には対応する4Rタウオパチーが確認できたが,前帯状回・前頭弁蓋ではタウオパチーは軽度であり,タウ蓄積とは異なる病的機序の関与を考えざるを得ない結果であった。 Dopamine-PETの解析で,線条体シナプス前機能と,黒質のTH陽性神経細胞密度の低下が,ともに経過期間に沿って非線形的に減少する傾向を示した。これは呈する症状に関係なく,PSPにおいては黒質、線条体病変が,経時的に進行することを示す所見と考えられた。また,D2受容体密度が比較的保たれ,極早期の一例でむしろ上昇を認めた点は,病理学的にタウオパチーが軽度であることと相関し,臨床的に早期には抗パーキンソン薬が軽度ながら効果を持ち,'パーキンソン病(PD)との鑑別が困難であることの,形態的基盤と考えられた。 中脳被蓋の萎縮はPSP/皮質基底核変性症(CBD)群と正常/PD群との鑑別には有用であるが,PSPとCBDの鑑別には使えないことが明らかとなった。また罹病期間との相関が認められない点は,DA-PET線条体シナプス前機能,黒質TH陽性細胞密度とは異なっており,黒質緻密層以外の要因の関与が,症例間のバリエーションを招いている可能性が示唆された。
|