2002年2月にフランスで設立された国立予防考古学研究所は、緊急発掘を専門的かつ独占的に行なう中央機関であり、現在、フランスにおける考古学活動の90%を担う、考古学の中心的な組織になっている。その一方で、従来の考古学研究の中心だった大学研究者と文化省文化遺産局考古部による考古学発掘は事実上停止し、彼らによる考古学研究も発掘をともなわない既存の遺跡の分析などに限定される傾向が生じてきている。このようなフランスにおける考古学発掘体制と中世考古学研究の新状況を理解するために、本研究の目標は次のように設定されている。 1)フランスにおいて、ここ10年あまりの間に急速に発展した緊急発掘制度の形成過程とその組織の実態を、フランスにおける関係諸機関における調査と文献収集を通じて明らかにすること。 2)フランスにおける新しい緊急発掘組織が遺跡の整備活用にどのように取り組んでいるか、また博物館や出版物を通じて発掘成果の公表をどのように行なっているかについて明らかにすること。 平成18年度には、国立予防考古学研究所創設にいたる、ここ10年あまりの間の緊急発掘制度形成の経過とその組織の実態を明らかにするために、同年9月にフランス現地調査を行ない、ナンシー大学中世考古学研究所での情報収集とパリの国立予防考古学研究所所長J・P・ドゥムル氏へのインタビュー調査を行ない、同研究所の発掘と研究体制の現状をかなりよく把握することができた。これらを通じて、同研究所とその地方部局が、発掘された歴史遺産の保存と活用、公開に関して積極的な姿勢を持ちつつも、実際には、あまり成果が見られない現状を確認できた。 その一方で、大学所属の考古学者などの中世考古学研究者の間では、従来の中心テーマだった、城、教会、墓地を中心とした定住地に関する研究が、新たなデータを欠いているために停滞する一方で、既に得られている遺跡の発掘データや現存する建物の分析から、居住空間としての城や町屋の研究、家具、室内設備、器具類に関する研究が進み、現在のフランス中世考古学研究が、これらの物質文化研究とも呼ぶべき領域へ移行しつつあることが確認された。
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