研究課題
特定領域研究
自由な物質設計が可能であり、将来のデバイスとして大きく注目されている分子性導体の物性を決定付けるE_F近傍の電子構造はその困難さのため従来ほとんど行われてこなかった。本研究では光電子分光法を用いて特に研究例が少ない2次元分子性導体の電子構造の研究を行った。研究戦略として、まず超伝導など様々な物性を発現する強相関電子系の研究を最終目標に据えた上で、分子性結晶の光電子研究が過去うまくいかなかったことを踏まえて、まず相関の小さく金属性の強い系である(BEDT-TTF)_3Br(pBIB)の研究を行った。その結果、レーザーを用いて初めて角度分解光電子スペクトルを得ることに成功し、2次元導体において本来存在するはずのフェルミ端の確認にも世界で初めて成功した。更に、光電子収量が過去行われてきた分子性導体に比べて千倍以上大きかったため、He放電管を用いた研究もあわせて行ったところ、明瞭なフェルミ端とバンド分散の直接観測に成功した。励起光エネルギーの異なる角度分解光電子スペクトルが得られたことで、バンド計算との比較もより詳細に行えるようになり、物質・材料研究機構の宮崎剛博士にこの物質の第一原理計算を行っていただき、その結果と比較を行った。その結果、バンド分散の形状は実験結果と第一原理計算で非常に良い一致を示した。一方で、そのエネルギースケールについては一部、異なる点があり、これらの原因を現在議論している。これらの研究により、第一原理計算による分子性導体の電子構造の研究が大きく進歩し、光電子分光を用いた研究と共に、分子性導体の物性研究に大きく寄与することができるようになる。