研究概要 |
現在実用に供されているFe-Si-Bアモルファス磁性合金は1.5-1.6T程度の高い飽和磁束密度と優れた軟磁性を有するもののガラス遷移を示さず,その形状は主として数10μmの薄帯に限られている.我々はこの合金にPを添加した特定の4元組成でガラス遷移現象を確認し、Fe_76Si_9B_10P_5において52Kの広い過冷却液体領域を見出した.この値は鉄-半金属系金属ガラス合金の中で最大級に位置するものであり,銅鋳型鋳造による丸棒状バルクの作製結果から,直径2.5mmまでガラス単相が生成することがわかった.本バルクガラス合金は高いガラス形性能と併せて約1.5Tの飽和磁束密度,0.8A/m程度の保磁力を示し,軟磁性材料としては従来のアモルファス磁性合金薄帯と同等以上の磁気特性を有する.さらに,機械的性質についても3.5GPaの圧縮破壊強度,173GPaのヤング率,0.7%の塑性変形挙動をことから,多方面への応用が有望視される.このFe_76Si_9B_10P_5合金を基にし,鉄-半金属系ガラス合金の組成を拡張したFe_76(Si,B,P,C)_<24>や(Fe_76Si_9B_10P_5)_<100-x>M_x:M=Nb,Cr,Mo合金についてガラス形成能と機械的性質について調査を行ったところ,現在までに,飽和磁束密度1.44Tを維持しながら3mmのガラス丸棒を生成し得るFeSiBPC合金や最大3.5mmのガラス丸棒を生成し得るFeSiBPNb合金,4%の圧縮時塑性歪みを示すFeSiBPCr合金,64Kの大きな過冷却液体領域を有するFeSiBPMo合金等が見出された.本系の新規な鉄-半金属系金属ガラス合金の高ガラス形成能については現在調査中であるが,この点を明らかにすることは,今後の鉄基金属ガラス合金開発の重要な鍵である考えられる.
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